ROUND2◎
敏腕刑事から逃げ切れるか!? ロンドン市内を駆け抜けろ!

テキスト/安田 均 
 近頃はインターネットでのオークションが盛んになっているが、思いがけない作品がとんでもない値段になっていることがある。自分の作ったモンコレTCGの全カード揃いに‘ン十万円’なんて値が付いているのを見ると、こんな高い値で買う人がいるのかな、とも思うのだが、けっこう交渉がまとまったりしているようだ。
 この前など、ラベンスバーガー社のゲーム『アンダーカバー』に、八万円という値がついていたのには驚いた。『アンダーカバー』は確かによくできているが、以前はこれといって珍しくもなく、あまり気にされなかったゲームなのだ。
 ここで、はたと気がついた。
 そうか、ボードゲームというのは、いま出ているおもしろいものが知られてなくて、なくなってからそれに気づいた人が必死に探し回るものなんだな、と。かくいうぼくも、昔『うさぎとかめ』というゲームを知って、猛烈に欲しくなり、あちこち探し回ってようやくフランス版を手に入れた覚えがある。フランス語のルールを読むのにえらくてまどったけれど、そうした苦労を補ってあまりあるほどおもしろかった。
 ということで、今回はそうしたおもしろドイツボードゲームの基本、ラベンスバーガーの製品がまだ日本でも一部手に入ることをお知らせしておこう。
 ラベンスバーガー社のゲームは、とにかくおもしろい。いま書いた『アンダーカバー』や『うさぎとかめ』はもちろんだし、他にも『ラビリンス』『ドラダ』など、ドイツで100年以上にわたって、ずっと傑作ゲームを出し続けてきた老舗なのだ。
 中でも、とっつきやすい代表作が『スコットランドヤード』。題名どおり、ロンドン市警を扱った推理ゲームだが、この手のものに多い頭を絞るタイプではなく、カンと推測を頼りに、わいわいがやがやと犯人を追い詰める一種のパーティゲームでもある。
 プレイヤーは、一人がロンドンを騒がせる怪盗Xとなり、ボードに印刷された美しいロンドンのマップ上を、こっそり逃げ回る。マップには、地下鉄、バス、そしてタクシーの路線図が網の目のように記されている。
 他のプレイヤーはすべてロンドン市警の刑事だ。目的は怪盗Xを追い詰めることだが、たとえ刑事の数が多くとも、これが最初のうちはなかなか難しい。怪盗Xは、自分がどこにいるかを何回かの移動の後に発表し、その間は、地下鉄、バス、タクシーのどれで移動したかを告げるだけでいいからだ。
 だから最初、刑事側は雲をつかむような移動になるんだけれど、いったん怪盗Xが姿を現わすと、そこに向かって、交通網を押さえつつ、包囲の網を狭めていくことになる。
 こうなってしまうと、怪盗Xはツラい。こっそり移動しようにも、刑事側の人数が多いので、どうしても逃げ道が限定されてしまう。逆に刑事側はそちらへと相手を追込めばいいわけだ。
 ところが、ここで怪盗Xには、ブラックチケットとダブルムーブという、天の助けが実はある。ブラックチケットというのは、刑事側にどんな移動手段を使ったのか教えなくてもいいというチケット、そしてダブルムーブというのは、文字通り一度に二度移動ができることだ。
 これを要所で使うことによって、怪盗Xはまんまと刑事側を出し抜き、その包囲網をかわすことができる。相手を引きつけるだけ引きつけておいてから、その網を破った方が逃げきれる確率が高くなるのは、いうまでもない。
 追う方の、推測とカンが徐々に当たってくる手ごたえはこたえられないものだし、仲間と指示を確認しあって協力しながら、追い詰めたときの気持ちのよさはなんともいえない。一方、怪盗Xは、刑事たちがわいわいがやがやいいながら、自分の居場所とちがうところで右往左往しているのを見るのは滑稽な気分になるし、逆にカンのいい刑事にあたりをつけられると、雰囲気は一変、冷や汗だらだらになり、それをきわどいところでかいくぐったときには、なんともいえない解放感に包まれる。
 このゲームがすばらしいのは、怪盗と刑事の役割に、趣きのまったく異なるおもしろさが用意されていて、たいていの人はそのどちらかに似あった性格をしているということだろう。怪盗X側はハッタリのきいた抜け目のない人がうまく、刑事側は冷静でカンのいい人がうまい。
 はっきりいって、発表から十数年がたっているのに、このゲームのユニークさと、親しみやすさを超える推理ゲームは出現していない。
 ボードが美しいのはもちろん、ゲームの小物に、怪盗Xの視線が刑事側によまれないようにとの配慮からバイザーが付属している。こいつをかぶってサングラスでもかければ、怪盗Xとしての雰囲気は抜群。それだけでも、愉快になってくる楽しい作品だ。