ROUND8◎線路を伸ばそう、鉄道ゲーム!

テキスト/安田 均 

 ボードゲームといっても、いろんな種類がある。
 普通に見かけるのは、なにかの盤(ボード)があって、その上にコマを置き、それで遊ぶもの。将棋や囲碁を考えればいいだろう。
 ただ、大昔からあるボードゲームを考えてみると、そもそもはこの盤というのがなくても遊べる形だったんじゃないか、とも思えてくる。
 いまもアフリカで遊ばれている『マンカラ』なんてゲームは、地面に図を描いたり、穴を掘ったりして遊ばれることもある。そりゃ、将棋や囲碁だってそうして遊べるが、『マンカラ』なんかの地面に穴を掘って遊ばれている写真を見ると、もともとそうしたものかもしれない、という気になったりする。
 そうすると、ボードゲームというのは、実はボードがなくても遊べるものだったのではないか、ということになる。
 なんとも皮肉な話だが、ありえなくはないだろう。ゲームといっても、基本は‘遊び’、いまでも地面に図形を描いて遊ぶものは、子供の頃にいくつか経験しているはずだ。おそらく、スポーツでもいくつかは、そこから発展していき、一方で、ボードが作成できるようになってから、ボードゲームが現われた、と考えてもいい。
 こんなことを思ったのも、今回、鉄道ボードゲームというのを考えたとき、ボードに印刷されたものより、自由に路線を描いたり、ボードを組み替えたりする方がゲームが楽しいものが多かったから。これはボードゲームの原初的なおもしろさを伝えている分野じゃないかと感じたからだ。

 鉄道ゲームときくと、日本で思いつくのはコンピュータゲームの『桃太郎電鉄』みたいなタイプだろう。サイコロを振って線路を進み、マップ上の都市を通過するたびに、特産品のようなものを売ったり買ったりしていく。あるいは、目的地を決めて、いかに早く着くかを競う。
 スゴロクの変形のようなもので、途中のイベントをやり過ごしながら、どれだけ早く着いたか、どれだけたくさん儲けたかが勝敗のカギになる。考えてみれば、人生ゲームとも変わらないわけである。
 スゴロクや人生ゲームより複雑なところは、描いてある路線がちょっと多くなって、選べるコースなどが増えている部分だろうか。
 ま、初期の鉄道ボードゲームは、基本はこうした『桃鉄』と似たようなものだった。
 これが1970年代に英米で出た2つの鉄道ボードゲームによって新たな方向性を持ち、続く1980年代にはより完成したものが登場してくる。
 まず、オーソドックスな方を紹介しよう。
 それは『レイルバロン』(1977年/アメリカ)というゲームだ。タイプはこれまでのスゴロク風で、そこに歴史シミュレーション部分がちょっぴり付け加っている。
 出したのはアバロンヒル社で、ここはウォーゲームなどシミュレーションゲームの専門会社だった。だから、そうした会社らしく、アメリカにかつてあった有名な鉄道会社の路線をそのままボードに描き、そこでこうした鉄道会社の売り買いまで行えるようにしたのである。
 鉄道会社自体の売買というのは、アメリカの鉄道の特殊事情で歴史をなぞっている。アメリカでは他のヨーロッパ諸国や日本のように国鉄というものが存在しない。それぞれ私有の鉄道会社が、有為転変を繰り返し、激しい買収・再編をしまくった結果、やがて車・飛行機にその座を奪われてすたれていった。
『レイルバロン』では目的地を決め、サイコロを振って列車を走らせ、目的地に着くたびに報酬がもらえる。そして、新たな目的地を決めて、また列車を走らせる。こうして儲けた資金で鉄道会社とその路線を買い、今度はその鉄道会社の収入と、自分のサイコロでの列車運行と同時に2つで儲けていく。いかに路線網で有利な鉄道会社を買い、いかに自社の路線でアメリカの東西南北をつなぐかがゲームのポイントだ。
 プレイヤーが列車運行で他人の路線を使うたびに、それが他人の鉄道会社の収入になるわけだから、ある意味『モノポリ−』の変形でもあり、この部分はかなり白熱する。
 問題は時間が結構かかる(約4時間)ことだが、アメリカの都市名やかつて有名だった鉄道会社の名前を自然に覚えてしまったりするのが、ゲームのメリット(?)だろうか。

 こうした方向とは別に、鉄道ボードゲームに線路を描いていく楽しさを導入した画期的な名作が『レイルウエイ・ライバルズ』(1973年/イギリス)だ。
 こちらは実際の地形はあるけれど、最初は都市名しかない。そこに、プレイヤーが線路を実際に描いていって(サインペンを使ってあとで拭うので、何度も遊べる)、自分に有利な路線網を形成していく。
 それが完成してから、今度は目的地を決めて、みんなで一斉に参加する鉄道レースをつぎつぎ行うというもの。自由な路線作りと鉄道レースということで、シミュレーション性は弱くなるが、ゲームとしては、路線網作り、そのあとの鉄道レースともども抜群におもしろい。
 特に前半の線路を敷いての路線網作り。これは、他のプレイヤーと競いながらも、自分の想定したように鉄道の路線を伸ばしていけるということで、選択の楽しさにわくわくする。もちろん、決められた距離内での路線伸ばしだから、あちらを伸ばそうか、いやこちらにしようか、他のプレイヤーと競争している都市間を先にするのか、それとも誰も来ていないところにするのか−−選択の幅が大きくて、空想が膨らむのだ。
 ゲームとしては、線を伸ばしていく陣取り、といった趣もあるけれど、鉄道の楽しみには、‘路線を描く’楽しみも大きいのだなというのを再認識させてくれる。
 そして、ちょっぴり一人遊び風のおもしろさのある前半の線路描きが、後半になって、敷いた線路を使って全員参加の鉄道レースになる。ここで、急にわいわいがやがやのサイコロ・レースゲームになるのも、メリハリが効いていて見事だ。サイコロのひと振りひと振りに力がこもり、喚声や悲鳴が交錯する。
 ゲーム背景も、出た当時は人気があって(ドイツゲーム大賞を受けた)、イギリスをはじめ、アメリカ、ドイツ、中国などのマップ20種類以上が続々登場した。
 残念なのは、出しているのがデザイナーであるデヴィッド・ワッツの小さな会社で、ゲームを手に入れにくいこと。ドイツ版はかなり前に、大手から『ダンプフロス』という題名で出ているので、これがいちばん求めやすいだろうか。

 こうした2つのゲームを進化完成させたのが、1980年代に出た『1830』と『エンパイア・ビルダー』だ。
 このうち『1830』(1983年/アメリカ:原形は1979年にイギリスで出た『1829』)は『レイルバロン』の進化形だ。
 もともとのゲームにあった鉄道会社の売買経営という部分を株式という形を導入して、もっと本格的に楽しめるようにした。
 また、鉄道路線も盤上で決まっているのではなく、線路を描いた六角形のタイルを置いていくことでかなり自由に伸ばせられるようにし、同時に、パズルのような考える要素を入れて、サイコロをまったく使わない形を考えだしたのだ。
 ある意味で、このゲームではランダムな要素が席順くらいになり、プレイヤーは毎ターン、鉄道会社の株式をどう購入して、どう路線を敷き、それでどううまく儲けるかを効率的に考えないといけない。
 こう書くと、難しいゲームのようだが──事実、難しい(笑)。といっても、それはどう勝つかが難しいだけで、自分がどう線路を敷いて、どう列車の性能を上げ、どううまく経営するか、は、ゲームに慣れてくると、たまらない楽しみに変わる。株式にしても、線路の敷き方にしても、なかなかシビアで、油断をしていると、たちまち破産したり、列車運行がうまくいかなくなる。
 ゲームの完成度からいうと、まずまちがいなくピカ一の鉄道ボードゲームだろう。
 欠点は、こちらも時間がかかること(4時間)と、初心者は簡単にゲームに入れない、ということくらいだろうか。慣れてくると、このおもしろさはたまらないけどね。

 一方、『エンパイア・ビルダー』(1984年/アメリカ)は、これまでの鉄道ゲームの完成形、というか、いちばん遊びやすくしたものだろう。
 アメリカ中に都市が散らばり、その間に自由にクレヨンで線路を描いていく。これもサイコロは使わない。そうしながらも、同時進行で目的地をプレイヤーごとに決めて、各都市の特産物を運んでは収入を得る。
 ありていにいえば、いちばん古くからの鉄道ゲームに『レイルバロン』や『レイルウエイ・ライバルズ』のいいところだけを取り込んだ、折衷形ともいえるだろう。
 強烈なはらはらどきどきはないけれど、遊びやすいし、線路の敷き方や目的地に競争性がそんなに強くないから、一人遊び風に気楽に遊べるところがいい。
 このゲームはいまでも手に入れやすく、それに、背景がアメリカ、イギリス、ヨーロッパ全域、インド、オーストラリア、さらには日本まであるというマップの多さも魅力のひとつだろう。

 こうした鉄道ボードゲームは、ぼくも大好きで、いろいろ遊んだ結果、自分でも作りたいと思った。日本では、昔からの特産品運搬タイプと、コンピュータでのシミュレーション性に重点を置いたもの──つまり、『電車でGO!』とか『A列車で行こう』みたいなタイプ──しかなかったので、ゲーム性の豊かなものを紹介したかった。
 特に、線路を自由に描けるもの、こいつを作ってみたい。
 ということで、できあがったのが『トレインレイダー』。確かに、ゲーム面では先に紹介した『レイルウエイ・ライバルズ』の影響は大きいと思う。
 盤上に自由に線路を描き、それからプレイヤーがすべて参加する目的(ミッション)がある。ただ、『レイルウエイ・ライバルズ』では、目的が鉄道レースというサイコロ競争だけだったけど、『トレインレイダー』はここがちがう。
 背景に列車を襲撃する集団というものを考え、列車同士で戦うという要素を入れてみた。
実際の鉄道の歴史でも、アメリカやオーストラリアでは、初期に列車強盗が瀕発していたし、こうした部分で列車同士でそれが行えたら、ゲーム面をもっとおもしろくできると思ったのだ。
 だから『トレインレイダー』では目的は競争だけではなく、争奪や運搬、戦闘などいろいろある。それをサイコロだけではなく、簡単なカードのやりとりでも表現したかった。
 『エンパイア・ビルダー』がこれまでのすぐれた鉄道ゲームの折衷形なら、『トレインレイダー』は発展形と考えてもらったらいいだろう。
 幸い好評で、最初のアメリカマップに引続き、今回ヨーロッパの拡張マップも付け加えることができた。それに、このゲームは2時間までで遊べるという点でも、いままでの鉄道ゲームにない特徴を持っていると思う。

 いずれにしても、鉄道ボードゲームは大きな気持ちになって、大地に自由に線路を引いていけるのが楽しい。そして、そこにいろんな列車を運行させる。
鉄道なんて興味ないやという人も、ゲームとしてまたちがう魅力もいっぱい詰っていると思うので、ぜひとも一度試してもらえたらと思っている。