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最近見かけなくなってしまったものに、“夜店”がある。
まあ、言ってみれば縁日のようなもので、かつては下町風のところでは、月々の決まった日になると、そうしたにぎやかな屋台が軒をつらね、ぶらぶらと歩いてみるのが楽しかったものだ。
そして、こうした夜店につきものなのが、金魚すくい、ヨーヨー釣り、射的といったゲームだった。
いまじゃ、そうした夜店はめっきり減ってしまったと思うけれど、ぼくが子供の頃には、日頃見かけない食べるもの、遊ぶものが続々と並び、とても楽しいものだった。毎月、その夜店が立つ、何番目だかの金曜日が来るのを心待ちにしていた覚えがある。
娯楽が少なかったから?
まあ、それもあるだろう。
でも、例えば、本屋にしたところで、普通の本屋や貸し本屋、古本屋はいつも存在していたけれど、こうした夜店で開かれる本屋には、妙にあやしい雰囲気がある。いまから思えば、別にそんなに変わってはいなかっただろうに、ついつい掘り出し物はないかと、目を皿のようにして古いSFマガジンやミステリマガジンを見つけ出そうとしたものだ。いまなら、絶版になったゲームブックやRPGのシナリオ集がないかと探すようなものだろう。
要するに、こうした夜店には“特別なもの”“いつもとはちがう場所”という異空間感覚が働くのだ。
似たようなものを考えると、現代ではコンベンションになるだろうか。コミケとかゲーム大会といったもの。というわけで、今回JGCウェストというゲーム大会では、グループSNEは“縁日”という形で、ゲームを一風変わった趣向で楽しんでもらおうと思っている。さて、うまくいきますかどうか。
ところで、そうした夜店感覚は、じっさいに行かないと楽しめないものだが、おもしろいことにボードゲームには、そうしたものが結構ある。
つまり、道具立てに凝った、見た目の派手な子供向けゲームだ。
もっとも、その大半は見た目だけで、中のゲームがそれこそ子供だましのつまらないものが多いから、すぐに飽きてしまう。いや、飽きるくらい遊べばいい方で、やりだした途端、‘こりゃ、だめだ’というのがわかって、その妙におおげさな道具立てだけを、懐かしさだけもてはやしてお終まい、お蔵入り、ということも多い。
でも、中には、ほんとにすごい傑作もまじっているから、これはこれでやめられなくなる。特に、ドイツ製のものは、これまでも書いているように、ゲームシステムをしっかり作ってから、そうした道具立てに凝っているものが多いから、すぐに飽きるものは少ない。
ここでは、そうした一見子供向けゲーム、しかし、大人が遊んでも絶対に楽しいものを2つ紹介してみよう。
まず、最初にも書いた夜店感覚の代表作『カヤナック(KAYANAK)』。
これが何かというと、イヌイットの魚釣りゲーム。氷に穴を開けて、そこから釣り糸を垂らし、大きな魚を狙うというあれだ。
可愛らしいボックスを開けてまずびっくりするのは、鉛筆のような先を尖らせた太い木の軸に、糸が垂れていて、その先に磁石が付いている。
一見して、何をするかはおわかりだろう。
そう、他には小さな丸い鉄の球が2種類入っている。その数、全部で90個――これが魚なのだ。
そして、このゲームはボードだけでなく、箱そのものも使う。
ボードには、氷の表面がもちろん描いてあるが、そこにぼこぼこと80もの穴が開いている。
なるほど、箱に鉄の球を入れ、ボードの穴にあの鉛筆みたいな棒から磁石を垂らして、丸い鉄球魚を釣り上げるんだな。
でも、これだけなら普通の発想だろう。魚釣りゲームというのはこれまでにもあったからだ。たいていは、こんな不格好な丸い球の魚ではなくて、もっと魚の恰好をした切り抜きがくっついていたものだ。
ところが、ここでひと工夫があるのが、近頃のドイツゲーム。
鉛筆のとがった先は、糸が付いている端とは逆なのだ。
そして、箱には、なんということもないコピー紙みたいなのが1枚。で、よく見ると、ボードにその紙をはさめるようにしてあるではないか。
そうか、これは白い紙を氷に見立て、それをボードにはさみ、鉛筆釣り竿で穴を開けてから釣るゲームなのだ!
まさに、これこそイヌイットの釣り。そして、“金魚すくい”そのものを連想させる夜店感覚だろう。まあ、金魚すくいは紙を破ったら駄目で、こちらは破るのがおもしろいのだけれど。
実際に、この紙を破って釣るという、馬鹿馬鹿しさにも近い発想を目にした瞬間、‘こいつは、おもしろいにちがいない!’という閃きがぼくを襲った。
これこそアナログゲームの真髄だ。
遊んでみると、その通り。
プレイヤーは自分の手番にサイコロを振る。そこでできること(1〜5回)が決まるのだけれど、これには基本が4種類だけ――穴を掘る、釣りをする、よい場所を求めて移動する、そして、このうちのどれでも選んで組み合わせる――この4つだ。
で、先にたくさん釣った方が勝ちというだけのシンプルさ。
書いてみると、どこがおもしろいんだ、と言われそうだが、これだけはやってみないとわからない。
まず、穴掘り。なんといっても、この辺りに魚がいるにちがいないと思って、鉛筆の先でボソッと、紙を破る感覚−−これがなんともいえない。慣れていないいと中途半端に破って、端が引っ掛かりやすくなり、釣り上げるときに大きな魚が逃げてしまうから丹念に開けることが大切。でも、そういうそそっかしいプレイヤーが必ず1人はいるんだね、これが。
で、次に、釣りの感覚。鉛筆棒の端を持って、なかなか定まらない磁石の先を穴に垂らす。これもまた、うまく垂らせないで、必ず糸を短く持つプレイヤーが出てくる。おいおい、そういうのは反則だぞ、大の大人がなにをやってんだか。
しかし、こうした必死になるところが、この釣りゲームにはあるのだ。糸が垂らされて箱の底に近づいた瞬間、カチッというなんともいえない音と、鉛筆竿にびくっとする感触が伝わる。
この‘びくっ’というのがたまらない。普通は丸い球(魚)が1個くっついてくるのだが、この感触が大きいときがある。そうすると、磁石球だから数珠つなぎになって、2個、いや多いときには3、4個が一挙にひっついて上がってくるのだ。
これぞ、まさしく大漁!
ところが、ここで感極まって(なんと大げさ)、手が震えたり、さっきも書いた紙穴がうまく開いていなかったりしたら、この球が落ちてしまう。
逃した魚は大きい。かくして、こうした大漁を狙って、プレイヤーの間には、熾烈な争いが繰り広げられていく。
もちろん、ゲームとしてもよく考えてある。サイコロには、さっきの4つ以外に、特別な記号が2つあって、これは積雪マーカーと、危険マーカーを置ける印。積雪マーカーは誰かの開けた穴を塞ぎ、危険マーカーは氷が薄くなっているので、その地域には侵入禁止となる。この2つをうまく使えば、他のプレイヤーに邪魔されずに、自分だけのいい漁場が確保されて、にこにこ大公望になれるわけだ。
丸い球は、最初に箱に入れてよく振るので、どこにあるのかはわからない。だけど、部分部分に偏っていることも多いので、狙いをつけることが大切。たまに、サイコロの目に恵まれず、その上、枯れた漁場をうろつき回るという悲惨なときもあるが、まあ、釣りというのはそんなものだろう。
何より、このゲーム、手で扱っているときの感触がすばらしい。木の手触りを楽しみながら、紙をボソッと破いて、震える糸先を垂らし、カチッという音とともに、びくっとくる感覚−−その妙に生々しい感覚は、小さい頃に忘れていたものを思い出させてくれる。ゲームは頭でするものだが、実はそれだけではなく、遊びとして捕らえるなら、体感というのも模しているのだなあ、とよくわかる。
この作品、実はドイツゲーム大賞(審査員が選ぶ)や、もうひとつの、ドイツゲーム賞(こちらは人気投票)の子供ゲーム部門を両方とも受賞している。出たときには、さして話題にならなかったけれど、遊んだ人たちはみんな大喜びしたのだろう。
破った紙は使用済みのコピー紙でいくらでも代用できるから、再生利用の作りもすばらしいといえそうだ。
もう1つのよくできた子供向けゲームは、これはクラシックと呼ぶにふさわしい『ミッドナイト・パーティ(MIDNIGHT
PARTY)』。最近は改題されて『おばけのヒューゴー(HUGO)』という名に変わったらしいが、そうして何度も出し直されるくらいよくできている。
これも説明するだけでは他愛ない。
屋敷の地下室の奥からおばけが出現。パーティ会場である回廊をプレイヤーの駒はぐるぐると逃げ惑い、部屋に早く飛び込めばセーフ。回廊でおばけに追いつかれれば、罰点をくらうというだけのもの。
ところが、ここにも(そんなに派手ではないが)道具の仕掛けがある。
まず、ボードだが、回廊の外側に、屋敷の部屋がいくつも描かれている。普通の部屋の他に、物置や小部屋もあって、これらに飛び込んでもOK。ただし、マイナス1点がつく。あと、+3点になる部屋もあるが、これはもちろん、おばけに狙われやすい位置にある。そうしたゲーム的なバランス以外に、部屋はあるのに扉が閉じていたり、トイレはいかにも逃げ込めそうなのに、これも閉まっている、というイラストでのいたずらが渋い。
そして、サイコロ。プレイヤーは順番に振って出た数だけ駒を移動させられる(人の駒でもいいところがミソ)のだが、出目は1、2、4、5しかない。あとの2つは、見たとおり、いかにものおばけマーク。これが出れば、おばけが3マス猛ダッシュをかけてくるのだ。3分の1の確率というのは不思議なもので、出るときには続けて出る。5、6回連続なんてのはざらで、あっというまにそいつが回廊を半周し、プレイヤーの駒の半数くらいを喰い散らしてしまうのは、よくある。
このおばけマークを出すか出さないかが楽しみの大部分なのだが、遊んでみるとおわかりになるが、異様に盛り上がる。特に女の子がいればきゃーきゃーと嬌声が辺りに響くのはまずまちがいない。また、これを狙って、わざわざ自分の駒を動かさずに、相手の駒をおばけの上がってきそうな前に動かすたちの悪いプレイヤーもいるからなおさらだ。
で、その仕掛けを存分に発揮しているのが、おばけのヒューゴー駒。
見かけは可愛らしいのだが、こいつは凶悪だ。どこがというと、作りが中空になっていて、プレイヤーの駒に追いつくと、カパッとその上にかぶせて喰ってしまえるのだ。
この動作、これこそがサイコロの目と並んで、このゲームの真髄だろう。
これが普通の像で、プレイヤーの駒に達したらアウト、くらいだと、もうひとつおもしろさに欠ける。いま来るかいま来るか、と脅えていて、‘来た!’と思った瞬間カパッだからこそ、カタルシスめいたものがあるのだ。そして、おばけに喰われて、やることのなくなったプレイヤーは、だからこそ、このカパッだけを楽しみに遊ぶことになる。
これを作ったのは、『6ニムト』でも楽しませてくれたクラマーだ。最近は大作で評価の高い彼だが、ぼくにとっては、『ミッドナイト・パーティ』『6ニムト』の2つだけでもその才能には感服している。
結局この2つは、しっかりした基本の上に、子供向けゲームという独特の道具立てがあって、見事に異空間へと誘ってくれる。そして、それは遊びが本来持つ生の感触――それは、もう忘れかけていたものだ――を呼び起こしてくれる。それこそが、大人も楽しめる子供向けゲームという、すぐれものの大きな特徴ではないだろうか。
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