ROUND 5◎アフリカ象はもっと好きです
テキスト/安田 均

 さて、いよいよドイツゲーム大賞の時期。以前から書いているが、この賞が前年度の目立ったゲームをよく網羅しているので、ファンとしては注目せざるをえない。
 もちろん、賞というのはいろいろ思惑がからむこともあるので、それだけに頼るのは危険だ。この賞も、グランプリには疑問な場合がときどきあるが、その前段階の候補作選びは秀逸で、それまでの1年間の傾向がかなりよくわかる。
 グランプリにしても、1979年からはじまっての22年間を見れば、たしかにそう外しているとは思えない。
『うさぎとかめ』『スコットランドヤード』『レイルウエイ・ライバルズ』『貴族の務め』『ブラフ』『カタンの開拓者たち』『エルフェンランド』など、遊びやすさとアイデア、そして、見た目の美しいゲームがきちんと選ばれている。いま遊んでみても、全然古びていないのは、さすがというべきだろう。
 ところが、ここでひとりだけ、ゲーム大賞から無縁の人がいる。
 現在のボードゲーム界を代表するデザイナーといってよい、ライナー・クニツィーアだ。
 とにかく、この人はデビューの頃から、ボードゲームの申し子と思えるくらいすごかった。
 大胆で緻密な発想のボードゲーム、それにもまして、切れのいいカードゲーム。
 はっきりいえば、文句のつけようがない。
 最初の頃に話題になった『モダンアート』(1993)。これは画商のせりを扱ったボードゲームだが、いきなり4種類のせりをゲームシステムに導入して、ゲーマーたちをあっといわせた。
 それまでにもせりを使うものは存在したけれど、これほどせりがおもしろいものだ、とクローズアップして教えてくれたデザイナーはいない。
 最近のドイツゲームは黄金時代であって、いろんなものが目につくが、土地の陣取り系はともかく、せり系が多いのはやはりクニツィーアの影響だろう。
 何だ、せりだけのデザイナーか、というなかれ。
 翌年には、今度は『古代ローマの新しいゲーム』を発表。
 これもアイデアではど肝を抜いた。
 ローマの歴史を縦軸に、14のミニゲームを集めてパッケージしたのだ。なんと、本格的な初のゲームアンソロジー!
 もちろん、ただのシナリオ14本みたいなことなら、RPGにだってこれまでいくつもある。また、『アクワイア』を作ったシド・サクソンという人も、おもしろゲームを集めた本のようなものは、これまでにも出していた。
 ところがこれは、どれも独立したゲームで専用のコマ付き。しかも、中にはのちに『メディチ』というすぐれたゲームになったり、他のゲームになったりと、豊富なアイデアがぎっしりと詰っている、まさに小粒ながらどれもが宝石のようなゲーム集なのだ。
 また、カードゲームでも、つぎつぎとおもしろいものを連発。特に『フリンケ・ピンケ』(1993)などは、3人用ゲームとしてこれまでにないほど簡潔なルールなのに、いろんな作戦が考えられ、‘どう決断すべきか?’がいつも回り来る珠玉の作品だった。
 そして、3年ほどたくさんの作品を出してから、1996年に1年沈黙。
 どうしたのだろうと思っていると、翌年から再び大爆発を起こした。
 彼はもともと数学博士であり、経営コンサルタントとしても有能で、かなりこの時期忙しかったらしい。インタビューを読むと、朝早くから起きて、出勤するまでにアイデアを整理しておく。普段はほとんどサラリーマンと変わらぬ生活(ドイツだから、日本みたいなことはないだろうけど)。そして、余暇を見つけては、仲間とテストプレイを繰り返して、どんどん作品を送り出していたらしい。
 で、経営コンサルタントとしても成功して、資産には恵まれたので、97年以降、プロのゲームデザイナーとして歩もうと考えたらしい。
 ここからがまたすごい。続く4年間で、送り出した佳作、傑作、名作は10を軽く越える。
『チグリス・ユーフラテス』
陣取りゲームの名作。
『砂漠を越えて』
多人数用の碁みたいなゲーム。ゲームシステムとして、いちばんよくできていると思う。プレイ人数によって、趣ががらっと変わるのもすごい。
『ラー』
せりゲームの集大成。ぼくはクニツィーアの中では、いちばん好きだ。
『サムライ』
日本を舞台にした、簡潔な‘チグリス’。短時間で終わるところがすごい。
『ラインランター』
クニツィーアが名作『アクワイア』に挑んだといえる作品。好きです。
『ロストシティ』
隠れた2人用ゲームの傑作。これも簡単なシステムだが、いろんな決断がある。
『タジマハール』
せりや陣取りをはじめ、クニツィーアらしさを集大成したゲーム。
『スティーブンスンのロケット』
これは鉄道ゲームの名作『1830』に挑んだともいえる。頭を絞るのが好きな人にはたまらない。
『アムステルダムの商人』
珍しくギミックを使って、アクション部分もある。ゲーム部分はやっぱりクニツィーアらしくておもしろい。
『指輪の王』
初の原作ゲームに挑戦。いままでに見たことのないストーリーゲームとなった。ボードゲームで勝ち負けがなく、それでもやはりボードゲームというすごさ。
『ドリーム・ファクトリー』
こちらはゲームシステムを地味にして、映画製作というテーマに当てはめた部分がおもしろい。

 これだけの作品を送り出せば、当然ボードゲーム界の牽引者として、だれもが認めるだろう。事実そうなのだが、不思議なことに、これまで彼はドイツゲーム大賞を受賞したことがない。候補にはのぼるのだが、なぜか10年近く経っても受賞しないのだ。
 初期の頃は、確かにゲームマニア層に受けるから、それがネックだったかもしれない。ゲーム大賞はあくまでファミリーゲームが対象だから。
 ただ、そうはいっても、彼のゲームは難しくないものも多く(考えることは必要だが)、遊ぶ人は別にマニアに限らないのにと、いつも思っていた。ゲームの得意な人が考えに考えても外す場合が多く、初心者が勝っちゃったということはよくある。
‘クニツィーアが大賞を取っていない’−−これはドイツゲームの七不思議のひとつだろう。

 ということで、彼の新作『アフリカ』である。
 暗黒大陸と呼ばれた頃のアフリカを探検するゲーム。表紙には、悠然とした大地に、真っ赤な夕日を浴びたアフリカ象が大きく描かれている。
 もうパッケージから、今回もおもしろいですよ、の匂いがプンプンする。
 すぐに遊んでみたいと思ったのには、2つの理由がある。
 1つは、もちろん好きなデザイナーであるからだが、もう1つは、このところ彼が新たな試みを続けているから。
 今回はどちらだろう、というのが知りたかった。従来の路線の完成形か、それとも新たな路線か?
 答えは、新たな路線、というものだった。
 作品はこれまでの‘切れがよい’というのを、表から隠す方向に向かっている。誰もがすぐに遊べ、頭を使う人も、そんなに使いたくないという人も、どちらもが楽しめる方向。
 これはすなわち、運をある程度作品のなかに取り込もう、という姿勢だ。
 そして、それにふさわしいシステムを思いきって、ここでは導入していた。
 それが‘めくり’だ。
 これを見たとき、ぼくは従来よりも、もっとクニツィーアが好きになった。‘めくり’のゲームというのは、考えるゲームが好きな人には敬遠されやすい。運がかなり作用するからだ。ところが、ゲームの好きな普通の人には、実に心躍るシステムでもある。というのは、運もあるが、それと同時に、まだ見たことのない何かが現れるわけだから、未知のものに対するわくわくどきどきがあるのだ。
 これを探検や冒険に応用すれば、少なくともRPGみたいな冒険ゲームの好きな人たちの興味は絶対に引く。
 そうしたゲームで、普通の人の興味を引くすべにたけたトイバーというデザイナーは、サイコロとめくりという手段を使うのがすごく巧かった。『カタンの開拓者たち』や『エントデッカー』という作品は、明らかにそれを応用してすばらしいゲームを組み立てていた(考えゲーだけの好きな人たちには、批判されていたが)。
 これを、ゲームシステムの切れではまちがいのないクニツィーアが使ってくれれば、おもしろいゲームができないはずはない。
『アフリカ』は、まさしくそうした期待を裏切らなかった。
 一見したところ、ゲームは簡単すぎるように思えるかもしれない。
 プレイヤーが自分の手番にするのは、自分の探検隊コマと隣りあった地点にある丸いチットをめくることくらいだから。
 この丸いチットが5種類のものを表す。
 象やキリン、シマウマといったアフリカの動物たち。それに、遊牧民。さらには、交易品と金や宝石、そして最後が遺跡。
 これらそれぞれには、違った得点方法がある。動物たちは集団でくっついている方が得点が高い。逆に遊牧民は隣りあった地点が空いている方が得点になる。プレイヤーはめくったチットがこれらだったら、他の場所に動かして、さらに得点することができる。
 交易品はすぐにそれを引き取って、同じものが集まるよう交換しながら得点を高める。
 金と宝石はすぐに得点できるが、むしろそれは低い。ベースキャンプを建てて引き取り、その数を増やして、最終的に最多になるようにすれば大きな得点となる。
 最後の遺跡は、めくったときには得点にならない。ただ、ベースキャンプのコマをもらえ、それが高い得点を得る助けとなる。ベースキャンプは、建てると金や宝石を引き取るか、周囲にある動物、遊牧民、遺跡の数だけ得点できる。
 ルールとしてはあと、めくる以外の行動が2つあるだけだ。
 すでにめくられているチット(動物、遊牧民)を動かして、より高い得点を狙うこと。これはたまたまそうした場所があったときだから、例外的な行動だろう。
 そして、大胆にも自分の手番を捨てて、ある場所から遠く離れたある場所にとび移ること。これは余程の場合だけに使われる。
 ルールはこれだけだから、することは限られている。
 だけど、実際にはじめると、どうした得点バランスで進めていくかで悩む。目先の得点を狙うのか、将来の大きい得点を狙うのか、とか、交易品を集めると最後は高くなるが、引かないとどうしようもない、とか。
 そうしているうちに、思いもかけないところに空いたスペースができ、チットをめくらなくても、高い得点になるのに気づいたり、得点ばかりを考えていると、端の方まで探検してしまい、めくるチットが遠くに離れた場所になってしまったりする。
 とにかく、得点競争は最終付近になるまで誰が勝っているのか、さっぱりわからない。おそらくと推測はつくのだが、これも最後にばたばたと高得点が獲得され、意外な逆転劇が起こりやすい。
 こうした点はチットのめくりという運にかかわってくるのだが、いろいろ考えて進めれば、運がなくとも総じてカバーできる位置にまでつけることは多い。
 それに何よりも、めくりの楽しさを書き漏らすわけにはいかないだろう。根本的に、つぎは何があるのだろうという期待があるために、たとえ少々遅れをとっても、楽しんでゲームが進められる。もうゲームが終わろうとするのに、あくまでこの暗黒大陸のすべてを明らかにしてやると意気込むプレイヤーが必ず出てくるところに、このゲームのすばらしさがあると思う。
 考える人はあくまで考えるし、そうしない人はあくまで楽しんで遊べる。こうした幅広さを持つゲームは、これまでのクニツィーアにはあまりなかった。
 その意味では、円熟味を増した新しい路線ということで、ぼくなどは大いに評価したい。
 ゲーム大賞は?
 ぼくは充分に該当する、と思ったのだけれど、最新情報によると、今年も『アフリカ』はダメだったらしい。
 まあ、これだけおもしろいものを作り続けて無理なのだから、まさしく彼は‘無冠の帝王’と呼ぶべきだろう。それはそれで価値がある。誰もが認め、ファンには大いに愛されているのだから。