ROUND 7◎ドイツ風味のフランス料理?
テキスト/安田 均

 最近のドイツボードゲームは、ドイツだけではない――と書くと、なんのことかわからないが、これは“ドイツボードゲーム”という名前とからんでいる。
 もともとは、ラベンスバーガー社などドイツのゲーム会社の出していたボードやカードゲームがしっかりとした造りで抜群におもしろく、一般のボードゲームの中でも出色の出来ばえだ、ということから便宜上の分類だった“ドイツボードゲーム”。
 それが、ここ10年ばかり急成長して、いまやボードゲームといえば、このドイツ産のものが世界のスタンダードになってしまった。
 車でもよくいう、アメ車やドイツ車みたいな感覚だと思っていたら、そのうち世界の他の国のボードゲームがかすんでしまって、なんだかボードゲームはみんなドイツみたいな状況になっきた。
 そして、今度は世界の各国が、この“ドイツボードゲーム”みたいなものを作りはじめ、ドイツ市場を中心に、ヨーロッパやアメリカに売り出していく、という構図になりだしたのだ。
 今回、紹介するのは、その代表のようなフランスのゲーム会社。
 もともとフランスでは、ドイツほどではないが、それなりにボードゲームは出ていた。小さいゲーム会社が、スポーツゲームなどを堅実に出版していた覚えがある。カードゲームでは、遊びやすくておもしろい『ミルボーン』なんかがフランス産だ。
 ところが、ここにもドイツゲームの流れが押し寄せてきて、いまではそうした作品を中心にしている2社がある。
 ユーロゲームズ社とティルシット社だ。
 どちらも積極的に、毎年新作を何点か出し、それぞれすぐれたレベルに達している。このうち、ティルシット社は伝統的なゲームも多く、まだこれまでのアメリカゲーム風のおおがかりな作品(例えていうと、かつてのアバロンヒル社のシミュレーション風ゲーム)もよくあるけれど、ユーロゲームズ社の方は典型的な“ドイツボードゲーム”に絞っている。
 そして、このユーロゲームズ社から、このところすぐれたゲームデザイナーが続出しているので、ぜひ注目してほしい。

 ひとり目は、フィリップ・ケヤエルト(発音が難しい。KEYAERTSなので、ケヤエールかもしれない)。
 昨年、『ヴィンチ』というゲームを発表し、これがドイツゲーム大賞の候補になって話題になった。
 でも、ほんとはそれよりも1年前、フランスで行なわれたゲームデザイン・コンテスト“シムドール”で、この作品は大賞を獲得しており、実際にドイツでもそのおもしろさが認められたというべきだろうか。
『ヴィンチ』というのは、ヨーロッパを舞台に、いろんな種族が現われては隆盛し、消えていく“文明の興亡”を表わしたゲーム。これまでにも『シビライゼーション』など名作が数多くあるけれど、これはとにかく遊びやすくて、可笑しかった。どこが可笑しいかというと、妙な種族がそれぞれの特徴をそのままに一時期暴れまわっては、あっというまに歴史の表舞台から去っていく。しかし、衰退しながらもしぶとく生き残って得点を稼ぐという辺りが、なんとも皮肉っぽくて楽しい。本格的な力作というより、しゃれたセンスの陣取りゲームという感じで、その軽さにいかにも新しいゲームだなあ、と感心したのを覚えている。
 もっとも新人デザイナーは、あてにはならない。一発屋というのもときどきいるから、その後はどうだろうと思っていると、今年は前作をも上回る快作第2弾を発表してくれたので、嬉しくなってしまった。
 それが『エヴォ』というゲーム。
 このタイトルはエヴォルーション、つまり“進化”を縮めたもの。
 進化といっても生物全般ではなく、むしろ恐竜の生き残りゲームだ。
 箱を開けると、ボードが2枚。おや、カラフルだけど、同じような6角マス目が表裏両面に印刷してあるぞ、と思ってルールを読むと、何とこれ3、4、5人用それぞれでボードの組みあわせが違うのだ。つまり、3人では世界が狭く、5人ではかなり広くなっている。
 この辺り製作サイドの“やる気”が感じられて、すぐに遊びたくなってくる。ボードゲームはやっぱり見栄えも大事だ。
 ゲームはここに恐竜コマを配置し、それがターン進行とともに増えていくので、気候の変化にあわせて、どう生き延びさせてやるか、というもの。
 ここでなんといっても楽しいのが、プレイヤーそれぞれのもつ恐竜形態ボード。
 最初は、なんとなく間抜けでコミカルな1本足の恐竜の図が描いてあるだけ。これに毎ターン、せりによって、角やら、足やら、毛皮やら、卵やらを付け加えていく。それぞれはチットになっていて、恐竜の図柄にそのまま付け加えていくので、まるでお絵かきをしているような感覚で楽しい。ときどき、お馬鹿なプレイヤーが角を何本も胸に取りつけたり、下品なやつが毛皮を妙な場所に置いたりするので、それだけで場がにぎやかになってしまう。
 こうしたユーモラスな感覚は、最近のドイツゲームに特有のもので、このフランス産ゲームもなかなかやるわい、といったところ。
 でも、ゲーム自体は、なかなかシビアな感覚を保っている。
 恐竜の図柄は、もちろん、そのプレイヤーの恐竜の能力を表すことになる。
 角の多いのは戦闘に強く、毛皮は寒さに強い。卵が多いと、多産系になる。足は移動力、尻尾はなぜかすばやさを表す。
 で、ゲームの方は毎ターン、気候が4段階に分かれて、基本は周期的に変化していく。これにあわせて、恐竜コマをボードのいちばん適した地形に動かしていく、というゲーム。もちろん、地形が気候に適していないと、その上の恐竜コマは哀れ死んで、ボードから取り除かれていくのだ。
 毎ターン、卵の数だけ恐竜は増えていくので、そんなに心配することはないように思えるかもしれない。
 そう、その通り。
 問題は、ボードの地形数が限られているのに、恐竜が適度に死ぬのではなく、微妙に増えていくことにある。
 こうなると、移動をしそこねて突然の大量死が起こったり、お定まりの角突きあわせての陣取り戦闘が行われることになる。
 でも、このゲーム、戦闘はそんなにメインではないし、ルールも簡単だ。
 むしろ、恐ろしいのは、多産によって、気候との折り合いをつけられなくなることだろう。ほんとに自然の気候変化というのは、きまぐれな上に冷徹だ。
 ある気候に合せた地形でそれなりにうまく栄えていても、卵によって生まれてくる恐竜にはもはや適した地形がない。
‘わあ、こんなところに生んでしまう親を許してくれ〜い’といいつつ、新たなコマを出してすぐに取り除かないといけないことなど、しょっちゅうだ。
 逆に、そうしたことがないよう、必死に増えた数にあわせて地形を確保し、ふう、なんとかうまくいったぞ、と思ったのも束の間、気候が突然逆進でもしたりすると、それまでの恐竜がばたばたばたと死んでいく。
 しかも、それだけではなく、プレイヤーの持つカードによっても、いろんな災難は降りかかってくるのだ。恐竜が生き残るというのは、とっても大変だったんだね、とついつい同情してしまいたくなるようなゲームだ。
 ゲーム全体のバランスとしては、カード部分はもっと少なくてもよかったのではないかと思えるけれど、それくらいしか文句をつけたくないほどゲームはよくできている(そりゃ、得点コマがひっくりかえりやすい、という点もあるけどね。そんなのは、ゲームのアイデアとは関係ない部分だ)。
 確かに、せり、移動、順番、カードと、いろいろゲーム中に気を配らないといけないことがあり、ゲームとしては本格派に属するだろう。ゲーム慣れしていない人は、最初ちょっととまどうかもしれない。でも、それは『カタン』だって同じだったはず。
 なにより、環境コントロール/移動戦略が中心のゲームなんてのは、これまでそうそうなかったし、そこに恐竜形態ボードの楽しさまで付け加えてくれたセンスには感心する。
 このケヤエルトというデザイナーは、絶対買いだよ。

 さて、もうひとりの、ブルーノ・フェデュッティ(FAIDUTTI)。こちらは、ボードゲームの好きな人なら、もうご存じかもしれない。去年、『操り人形』を出して、かなり人気を得たデザイナーだ。
 じっさい、あのゲームはおもしろかった。ドイツゲーム大賞の候補作になったが、本当は受賞してもよかったのに、と思っている人も多いはず。
 この人もフランス人で、ゲーム世界ではじつはかなり以前から活躍もしている。昔、『マンモスの谷』というボードゲームを出して、これが英米では、なかなかおもしろいと評判になっていた。
 そのフェデュッティの新作が、やはりユーロゲームズ社から出た『ドラゴンゴールド』。
 タイトルからわかる通りの、ファンタジーものだ。基本はドラゴンの宝をいちばん集めたプレイヤーの勝ち。
 おやおやRPG風のゲームかい、と思った人。近いけれども外れ。
 これはRPGなどのおもしろさをしゃれのめした、じつに愉快なボードゲームなのだ。
 中心は確かにドラゴン狩りだ。でも、キャッチコピーがこのゲームをよく表している。
‘ドラゴンを倒すことは簡単だ。でも、その後が大変’
 つまり、プレイヤーはドラゴンをみんなで倒し、そのあと宝を分配するのだけれど、制限時間内に配分をきっちり決めないと、宝は泡となって消えてしまう。そのにぎやかな交渉を、わいわいがやがや楽しむゲーム、というわけ。
 ちゃんと制限時間を計るために、砂時計も入っているという凝りよう。
 これには笑ってしまった。
 RPGを楽しんだことがある人は、ドラゴンを倒せたら大満足だろうが、そのあとの宝でまで悶着は起こしたくないはず。
 ところが、このゲームは、その悶着を中心にあれこれ楽しもうというのだから、人が悪いというか、意表をついたというか――
 だから、ドラゴンは簡単に倒せるようになっている。各プレイヤーの戦士、女戦士、魔法使い、盗賊が3〜4人集れば、すぐにやっつけられる。
 このドラゴンが、いろとりどりの宝を10個前後持っている。それを2〜3人で分けるのだが、宝の種類によって得点が違う。そりゃ、もめるのが普通だろう。
 しかも、盗賊や魔法使いを使っていれば、ドラゴンを倒す力は弱いかわりに、分配のときにはかなり力を発揮する。
 そして、この状況をさらに複雑にするカードプレイも、ゲームには若干含まれている。
 まあ、1度遊んでみれば、どんなゲームかはすぐにわかるので、ファンタジーやRPGの好きな人には特にお薦めだといっておこう。
 簡単なボードゲームながら、RPGをうまく利用して、思いもかけない交渉ゲームに仕立てたところが絶品だ。『操り人形』では、アイデアの一部を他の作品に借りたため、それがゲーム大賞レースではネックになったと思われたフェデュッティだが、今回これだけいい感じのゲームを作れるのだから、その才能は本物だろう。
 ゲームの性質上、5〜6人がおもしろいけどね。

 他にも、フランスではユニークな才能のゲームデザイナーが続々と登場しそうな気配がある。
 ここでも書いたように、それらは最新のドイツゲームを取り込んで、それにフランス独自の、そう、エスプリ、とでもいえるような感覚を効かせたものが多い。
 ドイツ風味だが、そこにはまぎれもなく、パリの匂いもする。こりゃ、ますますもって、ボードゲームの楽しみが増えたといえるだろう。